は、ほんの暫くの間に著しく血色を回復しておりまして、麻酔をかけられたままに細々と呼吸しはじめている、そのふくよかな胸の高低が見える位になっております。その異常な平和さ、なまめかしさ……台の下の醜い少女の顔と相対照しておりますせいか、その美しさは一層美しく、ほとんど気味の悪いくらい、あでやかに感じられるようであります。
 その脈搏を取り上げた若林博士は、時計のセコンドと睨み合せつつ、麻酔の効果を検診し初めました。その真黒い博士の姿が、心持ち頭を傾けたまま、石像のように動かなくなりますと、それに連れてこの室内の空虚が、ソックリこのまま、地下千尺の処に在る墓穴のような、云い知れぬ静寂に満たされてまいります。
 そのうちに脈を取っていた少女の手を投げ出して、時計をポケットに納めました若林博士は、その少女の身体《からだ》をそっと抱え上げて、部屋の隅に横たえてある寝棺の蓋の上に寝かしました。そうしてその代りに四一四号の少女の強直屍体を解剖台の上に抱え上げて、凹字《おうじ》型の古びた木枕を頭部に当てがいますと、大きな銀色の鋏《はさみ》を取上げて、全身を巻立てている繃帯をブツブツと截《き》り開く片端《
前へ 次へ
全939ページ中430ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング