伸《あくび》でもしながら……あの紳士の横ッ面《つら》を引《ひ》っ叩《ぱた》いたらドンナ顔をするだろう……この町に風上から火を放《つ》けて、火の海にして終《しま》ったらドンナに綺麗だろう。あの群集を撫で斬りにしたらドンナに痛快だろう。あの瀬戸物屋にダイナマイトをブチ込んだら……あの巡査の向《むこ》う脛《ずね》をタタキ折ったら……あの金魚屋の金魚を電車通りにブチ撒《ま》けたら……あんなお嬢さんを妾《めかけ》にしたら……あの銀行の金庫をポケットに入れたら……なぞいう、飛んでもない光景を、その人間の鼻の鼻の先で描いている。そうしてハッと気が付いては、独《ひと》りで赤面したりしている。
 これはみんな、自分の先祖代々の連中が、やってみたくて堪《た》まらないままに、ジッと我慢して来た残忍性、争闘性、野獣性、又は変態心理なんどの面々が、入れ代り立ち代り現代式の姿で、吾々の意識の中に立ち現われているので、そんな事はないなぞいうのは、内省力のない石頭か、あっても忘れている低能連中に過ぎない。その証拠には、そんな夢遊心理のドレカ一つが昂進し過ぎて、精神異状にまで出世したのを見ると解る。ちょうど小説の濃厚な
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