》、独《ひと》りこの演説男のみに限らんやであります。一般に吾々が睡眠中に、どこか高い処から落ちたような気がして、ハッと眼を醒ますことがありますのもこの例に照してみますと、格別、不思議では御座いませぬ。吾々の両親でも祖父母でも、誰でも一度や二度は経験しているであろう「シマッタ」とか「俺は死ぬんだッ」とか思う瞬間の、悽愴、悲痛を極めた観念の記憶が、一つの心理遺伝となって、吾々子孫に伝わったものの再現であろう事は、誰しも疑い得なくなるで御座いましょう。
御質問は御座いませんか……。
序《ついで》に今一つ御紹介致しますると、あのボール紙の王冠を頭に戴いて、行きつ戻りつしている年増女で御座います。これはあの衣紋《えもん》のクリコミ加減でもお解りになります通り、或る町家《ちょうか》の娘で、芸妓《げいしゃ》に売られておった者で御座いますが、なかなかの手取りと見えて、間もなく或る若い銀行家に落籍《ひか》される事になりました。ところがその銀行家の両親が昔気質《むかしかたぎ》の頑固者揃いで「身分違い」という理由の下に、彼女を正妻に迎える事を許しませんでしたので、彼女はそればかりを無念がりました結果、或
前へ
次へ
全939ページ中373ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング