る宴会の席上で、初めてのお客に向って「アンタが何ナ……妾《わたし》に盃《さかずき》指すなんて生意気バイ」と啖呵《たんか》を切りますと、イキナリその盃を相手にタタキ付けて、三味線を踏み折ってしまった……そのまま当病室《こちら》へ連れて来られたという痛快なローマンスの持ち主で御座います。しかし、思案の外《ほか》とは申しながら、昔と違いました新思想の今日で、ことに浮気稼業の身の上で御座いますから、それくらいの事で取り乱すのはチト気が狭過《せます》ぎるように思われるかも知れませぬが、そこが「心理遺伝」の恐ろしいところで、「身分違い」という言葉が、彼女のプライドを傷つける以上に深い打撃を与えたであろう事が、彼女の発病後の態度を御覧になるとわかります。あの通りトテモ見識ばったお上品ずくめで、腰附きから眼づかい、足どりまでも上《うえ》つ方《がた》のお上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》ソックリで御座います。すなわち彼女の家筋が、御維新前までは京都の鍋取公卿《なべとりくげ》……貧乏華族の成り損《そこ》ねであった事を、彼女はその精神異状によって証明致しておりますの
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