、止せばいいのに大音を揚げまして「心せいや――い。御本丸から御上覧ぞ――う」と余計な注意を致しましたために、思わず固くなったもので御座いましょう。忽《たちま》ち足を踏み辷《すべ》らしまして、数丈の石垣から転がり落ちつつ、粉微塵《こなみじん》となって相果てました。それ以来、その家の左官の職は絶えたので御座いますが、サテその祖父の血が、その娘を通じて、このモーニングの小男に伝わりますと、恐ろしいもので御座います。この男は中学時代までも時々、夜中に寝呆けて跳ね起きまして「助けてくれ」とか何とか云って叫び出す癖がありました。その都度《つど》に家族の者が驚かされて「どうしたのか」と落ち付かせて聞いてみますと「何だか高い屋根か、雲の上みたような処から、真逆様《まっさかさま》に落ちて行くような気がした」と申しましたそうですが……ナント奇妙では御座いませんか。斯様《かよう》に普通人の眼から見れば何でもない、軽い、夢中遊行の発作にまでも、何代か前の先祖が幾度となく「ハッ」とした刹那《せつな》の、徹底した恐怖の記憶が再現しているところなぞは、何という不思議な心理遺伝の実例で御座いましょう。……否、豈《あに
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