、しかしその体躯《からだ》を見ますと御覧の通り、腕も、脛《すね》も生白くて、ホッソリ致しておりまするのみならず、老齢の労働者に特有の、首筋をめぐる深い皺も見えませぬので、いずれに致しましても、こんな百姓の仕事に経験のある者とは思われませぬ。ことにミジメなのはその掌《てのひら》で、鍬を握っておりますから、よくは見えませぬが、その鍬の柄《え》の処々に、黒い汚染《しみ》がボツボツとコビリ付て見えましょう。あれは、その掌の破れた処からニジミ出している血の痕跡《あと》で御座います。しかも……老人は、それでも屈せず、撓《たゆ》まず、セッセと鍬を打ち振て行くところを見ますと、正木博士の発見にかかる、心理遺伝の実験が、如何に残忍、冷厳なものであるかという事が、あらかた、お解りになるで御座いましょう。
 次にあらわしまするはその横に突立《つったっ》て、老人の畠打《はたうち》を見物致しております一人の青年で御座います。お見かけの通り黒っぽい木綿着物に白木綿の古|兵児帯《へこおび》を締《しめ》て、頭髪《あたま》を蓬々《ぼうぼう》とさしておりますから、多少|老《ふ》けて見えるかも知れませぬが、よく御覧になりま
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