続きである「心理遺伝」の原則に支配されて動いている狂人たちであります。……しかも、これから三時間後……大正十五年十月十九日の正午となりまして、海向うのお台場から、轟然《ごうぜん》たる一発の午砲《ごほう》が響き渡りますと、それを合図にこの十人の狂人たちの中から、思いもかけぬスバラシイ心理遺伝の大惨劇が爆発致しまして、天下の耳目を聳動させると同時に、正木先生を自殺の決心にまで逐《お》い詰める事に相成るのでありますが、その大惨劇の前兆とも申すべき現象は、既に只今から、この解放治療場内にアリアリと顕《あら》われているので御座いますから、よくお眼を止められまして、狂人たちの一挙一動を精細に御観察あらむ事を希望いたします。
そこでその精細な御観察の便宜と致しまして、この十人の狂人たちの一人一人の姿を大写しにして御覧に入れます。
まず、最初に現わしまするは、西側の煉瓦塀《れんがべい》の横で、双肌脱《もろはだぬ》ぎになって、セッセと働いている白髪の老人で御座います。この老人は御覧の通り、両手に一挺の鍬《くわ》を掴んで打振《うちふり》ながら、煉瓦塀に並行した長い畑を二|畝《せ》半ほど耕しておりますが
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