斯様《かよう》に著しい衰弱の色を見せて参りましたのは、何かの凶《わる》い前兆と申せば申されぬ事もないようであります。或《あるい》はこの桐の木が、斯様な思いがけないところに封じ込られたために精神に異状を呈したものではないかとも考えられるのでありますが、しかしその辺の診断は、当教室でもまだ気が付きかねております。……無駄を申上げまして恐れ入りました。
 治療場の入口は、東側の病室に近い処に只一つ開いておりまして、便所への通路を兼ておりますが、その入口板戸の横に切り明《あけ》られた小さな、横長い穴から、黒い制服制帽の、人相の悪い巨漢が、御覧の通り朝から晩まで、冷たい眼付で場内を覗いているところを御覧になりますると、この四角い解放治療場の全体が、さながらに緑の波の中に据えられた巨大な魔術の箱みたように感じられましょう。
 この魔術の箱の底に敷かれました白い砂が、一面に真青な空の光りを受て、キラキラと輝いております上を、黒い人影が、立ったり、座ったりして動いております。一人……二人……三人……四人……五人……六人……都合十人居ります。
 これが正木博士の所謂「脳髄論」から割出された「胎児の夢」の
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