人としてこの実験の正体を看破した者は居ないから面白い。否。この実験の秘密はこの教室で仕事をしている副手や助手にさえも洩した事はないのだから、彼等は唯、何か非常に高遠な実験らしい……ぐらいにしか心得ていないのであるが、実は他愛ない……しかもステキに面白い実験なのだ。「解放治療」なぞいう鹿爪《しかつめ》らしい名前は、世を忍ぶ仮の名に過ぎないのだ。
 何を隠そうこの「解放治療」の実験は、吾輩が嘗て、当大学の前身であった福岡医科大学を卒業する時に書いた「胎児の夢」と名付くる一篇の論文の実地試験に外ならないのだ。
 但し吾輩が「胎児の夢」の中に並べ立てた引例は皆、人類各個お互い同志に共通した、喰いたい、寝たい、遊びたい、喧嘩したい、勝ちたいといった程度の心理の遺伝で、極く極く有り触れた種類のものばかりであるが、ここで研究しているのは、それよりもモットモット突込んだ、個人個人特有の極端、奇抜な心理遺伝の発作なんだ。近頃流行の猟奇趣味とか、探偵趣味なぞいうものが、足元にも寄り付けないくらい神秘的な、尖端的な、グロテスクな、怪奇、毒悪《がいどく》を極めた……ナニ、まだ見た事がないから見せてくれ。お易い
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