士としてその名を得たる正木敬之とは吾が事也。今日しも満天下の常識屋どもの胆《きも》っ玉をデングリ返してくれんがために、突然の自殺を思い立《たっ》たるその序《ついで》に、古今無類の遺言書を発表して、これを読む奴と、書いた奴のドチラが馬鹿か、気違いか、真剣の勝負を決すべく、一筆見参仕るもの……吾と思わむ常識屋は、眉に唾《つばき》して出《い》で会い候え候え……。
……と書き出すには書き出してみたがサテ、一向に張合がない。
……ない筈だ。吾輩は今、九大精神病学教室、本館階上教授室の、自分の卓子《テーブル》の前の、自分の廻転椅子に腰をかけて、ウイスキーの角瓶を手近に侍《はべ》らして、万年筆を斜《ななめ》に構えながら西洋大判罫紙《フールスカップ》の数帖と睨《にら》めっくらをしている。頭の上の電気時計はタッタ今午後の十時をまわったばかり……横啣《よこくわ》えをした葉巻からは、紫色の煙がユラリユラリ……何の事はない、糞勉強のヘッポコ教授が、居残りで研究をしている恰好だ。トテモ明日《あす》の今頃には、お陀仏《だぶつ》になっている人間とは思えないだろう。……アハハハ……。
吾輩は、いつもコンナ風に、
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