常識を超越していないと虫が納まらない性分でね。兎《と》にも角《かく》にも吾輩を一種の狂人と認めている満天下の常識屋諸君に同情するよ。
 そこでだ……そこで何から書き初めていいかトント見当が付かないが……何しろ遺言書なぞを書くのは後にも先にも今度が初めてだからね。
 併《しか》し、ここいらでチョイト普通人の真似をして、常識的の順序を立てて書く事にすると……まず第一に明かにしなければならぬのは吾輩の自殺の動機であろう。
 ソモソモ吾輩の自殺の動機というものは一人の可憐な少女に関聯している……という事が断言出来る……エヘン。笑っちゃいけない。
 そもそもその少女の美しい事といったら迚《とて》も迚も迚も迚もと二三十行書いて止めておいた方が早わかりする位だ。世界中のハンケチの上箱《うわばこ》、化粧品のレッテル、婦人雑誌の表紙、衣裳屋の広告人形、ビール店、百貨店のポスターなんどの在らん限りを引っぱり出して来ても……欧米のキネマ撮影所を全部引っくり返して来ても、こんなに勿体《もったい》ないほど清らかな、痛々しいほど匂やかな、気味の悪いほどウイウイしい……アハハハハハ。これ位にしておこう。年甲斐もなく
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