|苛《いじ》め……なぞ種々様々のタマラナイ光景が、眼の前の夢となって、クラリクラリと移り変って行く。又は自分の先祖たち……過去の胎児自身が、隠し了《おお》せた犯罪や、人に云い得ずに死んだ秘密の数々が、血塗《ちまみ》れの顔や、首無しの胴体や、井戸の中の髪毛《かみのけ》、天井裏の短刀、沼の底の白骨なぞいうものになって、次から次に夢の中へ現われて来るので、そのたんびに胎児は驚いて、魘《おび》えて、苦しがって、母の胎内でビクリビクリと手足を動かしている。
 こうして胎児は自分の親の代までの夢を見て来て、いよいよ見るべき夢がなくなると、やがて静かな眠りに落ちる。そのうちに母体に陣痛が初まって子宮の外へ押し出される。胎児の肺臓の中にサッと空気が這入る。その拍子に今迄の夢は、胎児の潜在意識のドン底に逃げ込んで、今までと丸で違った表面的な、強烈、痛切な現実の意識が全身に滲《し》み渡る。ビックリして、魘えて、メチャクチャに泣き出す。かようにしてその胎児……赤ん坊はヤットのこと限りない父母の慈愛に接して、人間らしい平和な夢を結び初める。そうしてやがて「胎児の夢」の続きを自分自身に創作すべく現実に眼醒め初め
前へ 次へ
全939ページ中342ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング