が脳髄の諷刺劇でなくて何であろう。
 これが脳髄のトリック芝居でなくて何であろう。

 それかあらぬか一方には、この唯物文化のまっただ中に、精神や霊魂関係の、怪奇劇や神秘劇が大昔のまんまに現われて来る。しかも、モウ沢山というくらいに、後から後から現われて来て、一々人間のアタマを冷笑して行くから愉快ではないか。
 唯物資本主義の黄金時代、科学文化で打ち固めた大都会のマッタダ中で、死んだ人間が電話をかけたり、知らない人間が一緒に写真に映ったりする。又は宝石が美人の寿命を吸い減らしたり、魔の踏切が汽車を脅《おび》やかしたりするはまだしも、大奈翁《だいなおう》の幽霊がアメロンゲン城の壁を撫でて、老カイゼルに嘆息して聞かせたり、ツタンカーメン王の木乃伊《みいら》が埃及《エジプト》探検家に祟《たた》ったりする。現に科学的推理の天才的巨人、指紋、足跡、煙草の灰式、唯物的探偵法の創始者シャーロック・ホルムズさえも、晩年に到ってはトウトウこの種の怪現象に引きずり込まれて、心霊学の研究に夢中になったまま息を引取った……のみならず、あの世からイーサーの波動を用いない音波をもって、生き残った妻子に話しかけた…
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