を間違えて、あすこの石垣の上から落ちられたものであろう……という事になっております。……もっともあの辺は、行って御覧になればわかりますが、街外れ特有の一面の塵芥捨場《ごみすてば》と、草原《くさはら》と、畠続きの大学裏で、よほどの泥酔者でなければ迷い込む気づかいの無い処です。……ですから、むろん他殺の疑いも充分にかけて、所持品等も遺憾なく調査してみましたが、紛失したものは一つも在りませんでした。……又、遺族の方々や、友人たちのお話を綜合してみますと、斎藤先生が外で酒杯《さかずき》を手にされるのは、学内でも極めて懇意な、気心のわかった連中から誘われた場合に限っているので、そうした相手の顔は一人残らず判明している位である。それ以外にタッタ一人でお酒を飲まれるのは自宅の晩酌以外に絶対に無いと云ってもいい。……のみならず、そんな風に外で深酔いをされた場合には、いつでも誰か、お相手の中の一人が、自宅まで送り付けて来るのが慣例のようになっているので、今度ばかりは全く不思議な例外としか考えられない……といったようなお話もありましたので、その意味でも色々な場合を想像して、充分に研究を遂げてみましたが、何
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