です。……そのキチガイ先生の騒ぎが、マンマと首尾よく成功した暁《あかつき》には、先生のお望み通りに精神科学が、この地上に於ける最高の学問となって来るのです。同時にこの大学みたように精神病科を継子《ままこ》扱いにする学校は、全然無価値なものになってしまうのです。……ですから、それを楽しみにして、精々《せいぜい》長生をして待っていらっしゃい。学者に停年はありませんからね」
といったような事だったと記憶しておりますが、これには流石《さすが》の斎藤先生も呆《あき》れておられましたようで……一緒に聞いておりました私も、少なからず驚かされた事でした。第一、こんな予言者めいた事を、正木先生が果して本気で云っておられるのか、どうかすら判然致しませんでしたので……正木先生がこの時、既に、自分自身で、そのような精神病者を作り出して、学界を驚ろかそうと計劃しておられた……なぞいうような事が、その時代にどうして想像出来ましょう。……のみならず正木先生が、かような突拍子もない事を云って人を驚かされる事は、その頃から決して珍らしい事ではありませんでしたので、斎藤先生も私も、この事に就いては格別に不審を起した事も
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