うな訳で、正木先生はその当時から、一風変った人物として、学生教授間の注目を惹いておられた次第ですが、しかも、そのように偉大な正木先生の頭脳を真先に認められましたのがここに掲げてありますこの写真の主、斎藤寿八先生と申しても過言では御座いませんでした。
……と申しますのは斯様《かよう》な次第で御座います。元来この斎藤先生と申しますのは、この大学の創立当初から勤続しておられたお方で、現在、この部屋に在ります標本の大部分を、独力で集められた程の、非常に篤学な方で御座いましたが、殊に非常な熱弁家で、余談ではありますが、こんな逸話が残っている位であります。嘗《かつ》て、当大学創立の三週年記念祝賀会が、大講堂で行われました際に、学生を代表された正木先生が、こんな演説をされた事があります。
「近頃当大学の学生や、諸先生が、よく花柳《かりゅう》の巷《ちまた》に出入したり、賭博に耽《ふけ》ったりされる噂が、新聞でタタカレているようであるが、これは決して問題にするには当らないと思う。そもそも学生、学者たるものの第一番の罪悪は、酒色に耽る事でもなければ、花札を弄《もてあそ》ぶことでもない。学士になるか博士に
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