に対して手向いも何もせずにヨロヨロとよろめきまわっている。左手の黒い包みをシッカリと握り締めたまま……。
 妾はこんな面白い光景を見た事がなかった。あの包みが直ぐ横の電柱か、自動車の横腹にぶつかったら……と思うと、何度もハラハラさせられた。
 ところが不思議な事に、二人はそのまま別れて行かなかった。
 ブル・オヤジはウルフを睨み付けたまま、右手をあげて合図をすると、自動車の中から、菜葉《なっぱ》服に鳥打帽の、肩幅の広い運転手が降りて来た。この運転手はブル・オヤジが用心棒に雇っている相馬という男で、刑事の経験がある上に、柔道を四段とか五段とか取る恐ろしい人だとハラムがいつぞや話して聞かせた。本当だか嘘だかわからないけども、何しろブル・オヤジがまん丸く膨れて、赤い浮標《ブイ》のようにフラフラしているのに、片っ方の運転手は弗箱《ドルばこ》みたいに重々しくて真四角い恰好をしているから、見かけだけでも頑固らしい。おまけに、そればかりでなく、その男が自動車の手入れをする姿のままで来たのだから、何でもヨッポド素敵な大事件を耳にしてフル・スピードで飛び出したとしか思えない。そうして何かしら思い切った冒
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