ったので、正直のところ胸がドキドキした。けれども、それが静まって来ると、一緒に、こうした不意打ちの出来事の原因がハッキリと妾にわかって来た。これは運命の神様のイタズラに違いないということが……。
 運命の神様ラドウーラの御つかわしめ[#「御つかわしめ」に傍点]になっているハラムは、ツイ今しがた妾の処からウルフが帰りかけたのを見るや否や、どこかでお酒を飲んでいるブル・オヤジに何かしら大変な急用を知らせたに違いない。ことによると昇降器に故障が出来たのもラドウーラ様がハラムに御命令遊ばしたトリックの一つかも知れない。そうしてウルフの帰りを手間取らして、妾の旦那と色男が、わざっと妾の眼の下の往来でブツカリ合うように時間を手加減なすったのかも知れない。
 そう思いながら腋の下の寒いのも忘れて一心に見とれていると、ブルとウルの二人は、だしぬけにブツカリ合ってビックリしたらしく一寸《ちょっと》の間《ま》、睨《にら》めくらをしているようであったが、そのうちにブル・オヤジはツカツカと二三歩踏み出した。……と……いかにも傲慢らしくウルフの肩に手をかけて二三度グイグイと小突きまわした。けれどもウルフは、それ
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