ココナットの実
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)妾《わたし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)古代|更紗《さらさ》のカアテンを引いて、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ういうい[#「ういうい」に傍点]しく
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 妾《わたし》は今、神戸海岸通りのレストラン・エイシャの隅ッこに、ちょこりんと腰をかけている。油気のない前髪をういうい[#「ういうい」に傍点]しく垂らして、紫ミラネーゼの派手な振袖を着て、金ピカの塩瀬《しおぜ》を色気よく高々と背負《しょ》っているのだから、ウッカリした男の眼には十四五ぐらいにしか、うつらないでしょうよ。どうぞ、そのおつもりでネ……ホホホホホ……。
 妾の手にはタッタ今ボーイさんが買って来てくれた号外が一枚載っている。これは今から三時間ばかし前に、ここから二三町先の海岸通りの横町で起った事件で、あちこちのテーブルに固まっている男のお客たちも首をつき合わせながら引っぱり合っている。西洋人までが鹿爪《しかつめ》らしく耳を傾《かし》げているせいか室《へや》の中が急にシンカンとな
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