ェーじゅうの西洋人や日本人が一時にこっちをふり向いた。帳場の男も註文を通しながら妾の横顔に、色眼みたいなものを使っている。だけど妾がこの事件のホントーの犯人で、疑問の少女エラ子だなんて事は一人も気付いていないらしい。何といったって妾のメーキァップは、やっと女学校に這入《はい》ったぐらいのオチャッピイにしか見えないのだから……。
 そんな連中のポカーンとした顔を見まわしているうちに、妾はたまらなくユカイになってしまった。スコシ酔っているせいかも知れないけど……妾はわざっと黄色い声を出して、帳場の男に頼んでやった。
「……あのね。すみませんけど、レターペーパと鉛筆を貸してちょうだいナ……」
 帳場の男が眼をパチクリさせた。兵隊みたいに固くなって、
「かしこまり……ました」
 と云い云いすぐにペーパと万年筆を持って来てくれた。
 妾は一気にペンを走らせはじめた。ジン台のカクテルをチビリチビリ飲みながら……。
 ……みんな面喰っているらしい。そんなことなんか、どうでもいいんだけど……。
 あたしは事件の真相を発表する前にタッタ一こと書いておく光栄を有します。
 妾がこの手紙を書き上げるまでには
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