いパンの固まりを、お臍の上に乗っけたまま、ソーッとあおのけに引っくり返った。その中の銀色の球《たま》の重たさを考えながら、静かに息をしていると、そのパンの固まりが妾の鼻の先で、浮き上ったり沈み込んだりする。その中で爆弾が温柔《おとな》しくしている。そのたまらない気持ちよさ。面白さ。とうとうたまらなくなって妾は笑い出してしまった。
 あんまりダシヌケに笑い出したので、ウルフは驚いたらしかった。靴を穿きかけたまま妾の処へ駈け寄って来て、妾のお臍の上から辷《すべ》り落ちそうになっているパンの固まりをシッカリと両手で押え付けた。サッキのように、おびえて、ウツロな眼付きをしいしいパンの固まりを抱え上げて、妾の寝台の下に並んでいる西洋酒の瓶《びん》の間に押し込んだ。ホッと安心のため息をしいしい立ち上り、又服を着直した。靴穿きのまま、ダブダブのコール天のズボンと上衣《うわぎ》を着て、その上から妾の古いショールをグルグルと捲き付けた。その上から厚ぼったい羊羹《ようかん》色の外套《がいとう》を着て、ビバのお釜帽《かまぼう》を耳の上まで引っ冠せた。それから膝をガマ足にして、背中をまん丸く曲げて、首をグッと
前へ 次へ
全39ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング