と不意に妾の両脚の間の、真白なリンネルの上に、骨だらけの身体《からだ》を投げ伏せて、両手をピッタリと顔に押し当てた。
妾はハッとして起き直った。血を吐くのじゃないかしらんと思った。そのモジャモジャと乱れ重なった髪毛《かみのけ》の下を、ドキドキしながら見守っていた。しかし、そうじゃないらしい事が間もなくわかったので、妾はガッカリしてしまった。
ウルフは、差し出した妾の手をソッと押し退《の》けた。そうして泪でよごれた顔を手の甲で拭《ぬぐ》い拭い寝台から降りて、長椅子の上に投げ出した洋服を着はじめた。
けれども継《つ》ぎ継ぎだらけのワイシャツとズボン下を穿《は》いて、黒いボロボロのネクタイを上手に結んでしまうと、ウルフは、穴だらけの黒靴下を両手にブラ下げたまま、又、ジッとうなだれて考えはじめた。
すると、そのうちにジッと考え込んでいたウルフは、何と思ったか両手に提《さ》げていた古靴下を麻雀台の上に投げ出した。髪毛《かみのけ》をうしろにハネ上げて、入口の扉《ドア》の方へヒョロヒョロと近づいた。そこの棚の上に置いてある黒い風呂敷包みを丁寧にほどいて、新しい食パンの固まりを二つ、大切そうに
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