して今一度シッカリと眼を閉じて見せた。ハラムのお説教の意味がすきとおるくらいハッキリと妾にわかったから……。
ハラムは毛ムクジャラの両手を胸に押し当てて、黄色いターバンを心持ち前に傾《かし》げていた。その青黒い瞳をジイと伏せたまま、洞穴《ほらあな》の奥から出るような謙遜した声を響かした。
「……おそれながら私は、今日という今日までの間、運命の神様のお仕事が、お姫《ひい》様の御身《おみ》の上に成就致しまするのを、来る日も来る日もお待ち申しておったので御座います。それを楽しみに明け暮れお側にお付き添い申上げておったので御座います。眼に見えぬ運命の神様のお力を借りまして、あの赤岩権六様を、あなた様にお近づけ申し上げましたのも、かく申す私なので御座います。それから、あの共産党の中川さまを、お伽《とぎ》におすすめ致しましたのも、ほかならぬ私めが仕事で御座いまする。そうして、かように申しまする私が、赤岩様のお眼鏡に叶いまして、あなた様の御守役として、御奉公が叶いまするように取り計らいましたのも、皆、この私めが、私の霊魂を支配しておられまする神様の御命令によって致しました事なので御座いまする」
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