ハラムはここまで云いさすと、何故だかわからないけれどもフッツリと言葉を切ってしまった。つっ伏したまま黙りこくって、身動き一つしなくなった。それにつれて、その下の籐椅子の鳴る音が、微かにギイギイときこえて来た。運命の神様の声のように、おごそかに……ひめやかに……。
妾《わたし》は今までに泣いた事などは一度もなかった。人間が何人殺されたって、どんなに大勢からイジメられたって、悲しいなんか思ったことはコレッばかしもなかった。それだのにこの時ばっかりは、何故ともわからないまんまに、泪《なみだ》が出て来て仕様がなかった。ハラムのお説教とは何の関係もなしに胸が一パイになって来て仕様がなかった。何が悲しいのかチットモ解からないのに泣けて泣けてたまらなかった。
……すると、そのうちに何だか胸がスウ――として来たようなので、妾は羽根布団からヒョイと顔を出してみた。
両方の眼をこすって見るとハラムはまだ妾の前に頭を下げている。妾を拝むように両手を握り合わせて、両股を広々と踏みはだけている。そうして心の中《うち》で御祈祷か何かしているらしく、唇をムチムチと動かしている。
そうしたハラムの姿を見ている
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