、そのまま瞬《またた》き一つしなくなった。妾も仕方なしに、真綿の椅子の中で羽根布団に埋《うずま》ったまま、おなじようにしてハラムの顔を見上げていた。
籐椅子がハラムの大きな身体《からだ》の下でギイギイと鳴った。
その時にハラムは底深い、静かな声で、ユルユルと口を利きはじめた。妾の瞳をみつめたまま……。
「……何事も運命で御座います。妾は、お姫《ひい》様の運命をはじめからおしまいまで存じているので御座います。あなた様の過去も、現在も、未来の事までも、残らず存じ上げているので御座います。この世の中の出来事という出来事は、何一つ残らず、運命の神様のお力によって出来た事ばかりなのでございます」
ハラムの顔付きがみるみるうちに、それこそ運命の神様のように気高く見えて来た。ターバンのうしろに光っている海月色《くらげいろ》のシャンデリヤまでが、後光のように神秘的な光りをあらわして来た。それにつれてハラムの低い声が、銀線みたいに美しい、不思議な調子を震わしはじめた。
「……その運命の神様と申しまするのは、竈《かまど》の神、不浄場《ふじょうば》の神、湯殿の神、三ツ角《かど》の神、四つ辻の神、火の山
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