お姫《ひい》様……何もかも運命で御座います」
ハラムは、そうした気持ちの妾を又も軽々と抱き上げて、ノッシノッシと歩きながら、室《へや》の真中に在る紫檀《したん》の麻雀《マージャン》台の前に来た。それは牌《パイ》なんか一度も並べた事のない、妾達の食卓になっていた。その前に据《すわ》っている色真綿《いろまわた》の肘掛椅子の中に妾の身体《からだ》を深々と落し込むと、その上から緞子《どんす》の羽根布団を蔽いかぶせて、妾の首から上だけ出してくれた。
ハラムのこんなシグサは、まったく、いつもにない事だった。けれども妾は別段に怪しみもしないで、される通りになっていた。今から考えると、その時の妾の恰好《かっこう》は、ずいぶん変デコだったろうと思うけど……。
そればかりじゃなかった。ハラムは平生《いつも》のようにパンカアを引き動かして、妾の身体《からだ》を乾かしてくれる事もしなかった。そんな事は忘れてしまったように、室《へや》の隅から籐椅子《とういす》を一つ、妾の前に引き寄せて来て、その上に威儀堂々とかしこまった。そうして塔のように捲き上げたターバンを傾けて、妾の瞳にピッタリと、自分の瞳を合せると
前へ
次へ
全39ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング