飛び込むと、金襴の巾着を掴むが早いか梯子段を駆け降りて、窓から露地に飛び降りました。
それと同時に、
「アッ、泥棒」
と言う支那人の声がうしろから聞こえました。
春夫さんは一目散に繁華な往来を駆け出しました。そのあとから支那人が、
「泥棒、泥棒」
と叫びながら追っかけて来ました。往来の人々は何事だろうと驚きましたが、間もなく春夫さんは通りかかったお巡査《まわり》さんに巾着ごと押えられてしまいました。
「その巾着返せ」
と追っかけて来た支那人が春夫さんに飛び付きましたが、春夫さんはしっかり両手で掴んで、
「嫌だ嫌だ。この支那人は人買いです。お巡査さん、捕《つか》まえて下さい」
と泣きわめいてどうしても離しませんでした。
ジロジロ二人の様子を見ていたお巡査《まわり》さんは、
「一度調べねばならぬから二人とも警察に来い」
と云って、支那人も一緒に連れて行きました。
警察へ行くと、二人は警察の大広間で一人の警部さんに調べられました。春夫さんはその時に今迄の事をすっかり話して、
「この支那人は人買いの追い剥ぎです。うちの美代さんもこの中にいるのです」
と言って金襴の袋を出して
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