見ました。鬚をひねって聞いていた警部さんはこれを聞くと笑い出して、
「フム、面白い話だ。どうだ支那人、その通りか」
 と尋ねますと、支那人は手と頭を一時に振って、
「違います違います。この袋は私の大切な袋です。この小供はうそ云います。こんな小さい袋の中に女の子が大勢いる事ありません。嘘ならあけて御覧なさい」
「フム。おい、春夫とやら。その袋をあけて見ろ」
 春夫さんが机の上に袋をあけると、中から青だの赤だの白だの紫だの金だの銀だの、数限り無い南京玉が机上一面にバラバラと散らばって床の上にこぼれました。
「これ欲しいからこの小供泥棒したのです。そうして嘘云うのです」
「どうだ、それに違いなかろう。貴様、今の中《うち》に本当の事を云えば許してやる」
 と警部さんは怖《こわ》い顔をして申しました。そうして支那人に、
「お前はもういい。その袋を持って帰れ」
 と云いました。支那人は喜んでピョコピョコ頭を下げて、散らばった南京玉を拾い集めて巾着に入れかけました。
 泣くにも泣かれぬ絶体絶命になった春夫さんは、この時思い切って高らかに叫びました。
「メーチュンライライ」
 するとどうでしょう。数限
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