して梯子段《はしごだん》の上に出て、あとの硝子《ガラス》窓をソッと閉めました。すると疑いもない女の児の泣き声が、上の方から今度ははっきり聞えて来るではありませんか。
 春夫さんは胸を躍らせながら、足音を忍ばせて真暗な梯子段を声のする方へ近寄りました。その突当りの真暗な廊下に一つの扉があります。声はその中から聞えて来るようです。
 春夫さんはその扉の鍵穴にそっと眼をつけて見ましたが、思わず声を立てるところでした。
 中には、青い洋燈が真昼のように点《とも》れている下に、大きな大理石の机があります。その前に最前の支那人が汚いシャツ一枚になって腕まくりをして、巾着の口を開いて中をのぞきながら、
「メーチュンライライ」
 と云いますと、一人の女の児が見事な洋服を来たままヒョイと机の上に飛び出しました。
 女の児は机の上に立つと、暫くは眩《まぶ》しそうにキョロキョロあたりを見まわしておりましたが、支那人の顔を見ると、かどわかされた事に気が付いたと見えて、ワッとばかりに泣き出しました。
 支那人はニヤニヤ笑って巾着の口を閉じながら、
「お嬢さん。あなた、私の口真似をしたでしョ。だから私が罰をするの
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