ふり返り逃げて行きましたが、そのうちに、とある高い崖の上に来ますと、眼の下に絵のような美しい都が見えて来ました。
 その都はほんとに絵のように美しい都でした。
 どの家もどの家も白い壁に青い屋根で、その下から青や黄色の電燈がキラキラと光っています。
 その真中には大きな黒い鉄のお城がありまして、その中から紫のあかりが眩《まぶ》しいほど光って見えました。
 その上にはお月様と星が光っていて、その美しいこと……そうしてその静かなこと……電車の音も自動車の響《ひびき》も人間や犬の声なぞも何もきこえません。生きたものが住んでいるのかどうかわからない位です。
 オシャベリ姫はしばらくの間ボンヤリその景色に見とれていましたが、
「ああ、こんな静かな所にいたらさぞいいだろう。昼間オシャベリをする雲雀や、夜中に鳴きまわる蛙がいないから、どんなにうるさくなくていいだろう」
 と思いながらフト足もとを見ますと、一本の蔦葛《つたかずら》が垂下《たれさが》って、ずうっと崖の下の家の側まで行っております。
 オシャベリ姫は直ぐにその蔦葛を伝って下へ降り初めました。
「もうこの国へ来たら口を利くまい。この国にはあ
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