みると外は立派な蛙の町です。そうしてその町がどこまでもどこまでも蛙ばかりで、電車も自動車も蛙で埋まったまま動かなくなって並んでいます。
 そこへオシャベリ姫が飛び出したので、今までよりも一層大さわぎとなって、
「ガアガアガアガアガア
 ワーワーワーワーワー」
 とまるで大暴風《おおあらし》のように騒ぎ出します。
 姫は夢中になって蛙の頭を踏みつけながら、町の外へ逃げ出しました。
 野原でも林でも田圃でも何でも構わずにドンドンドンドン駆け出しますと、蛙たちはあとから押し合いへし合い追っかけます。
 姫は息が切れて足が疲れて死にそうになりましたが、それでも蛙たちは追っかけやめません。
 そのうちに日が暮れて、東の山からまん丸いお月様が出て来ました。
 そのお月様をみると、オシャベリ姫はホッと一息しました。
 日が暮れたらいくら蛙でも最早《もう》追っかけて来はしまいと思いましたが、それは大変な間違いでした。
 日が暮れてお月様が出ると、野原の方は一面に蛙ばかりがいるようにガアガアガアガアと鳴き声がして、もう足元に追っかけて来そうです。
 これは大変と、姫は又も山の方へ山の方へとあとをふり返り
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