。……コイツはキチガイ……」
「畜生……まだ云うかッ……」
白坊主は三好を抱えたまま腰かけの上に坐り直した。両腕にグッと力を入れ初めた。
「ギャアギャアギャアギャアギャアギャア……」
それは鳥とも獣《けもの》とも付かぬ声であった。必死の努力で手足を突張りながら、白い繃帯の上から又野の両腕に噛み付いたが、何の役にも立たない事がわかると、又叫び初めた。
「ギャギャギャギャ、ギイギイギイギイッ……」
往来を通りかかっていた人が皆、走り集まって来たので待合室の中が急に、暗くなった。
その中で三好の左右の肩骨がゴクンゴクンと折れ離れる音がした。
「ダダッ。ガガッ。ギイギイギイ――ッ……」
青鬼のようになった三好の両眼が、酸漿《ほおずき》のように真赤になった……と思ううちに鼻の穴と、唇の両端から血がポタポタと滴《した》たり出した。
余りの恐ろしさに見物人がドロドロと背後《うしろ》に雪崩《なだ》れた。その背後《うしろ》から佩剣《はいけん》の音がガチャガチャと聞こえて来た。
「どこだ……どこか……」
「ここです」
「ここで絞め殺されよります」
と店員風の若い男が二人を指《ゆびさ》した。そ
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