《やけはた》した儘《なり》、今朝《けさ》、製鉄所の病院で息を吹き返《かや》いた。……それでヒョッと貴様が、昨夜《ゆんべ》のうちに金を探し出いて、ここへ来はせんかと思うて、死ぬる思いで、暗いうちに病院を脱出《ぬけだ》いて、塀を乗越いて、ここへ来たんだぞ。眼の眩むほど痛いのを辛棒して待っておったんだぞ。貴様の生命《いのち》を貰おうと思うて……」
そう云ううちに白坊主は、相手の返事を聞くべく、すこしばかり両手を緩めた。
「ウワ――ッ。違う違う……皆さん。こいつの云う事は皆嘘です。キチガイです。どぞ……どうぞ……助けて下さい。僕を殺しに来ているんです。キチガイ病院から抜け出して……」
「ハハハ……何とでも云え……今度の事件は皆、貴様がたくらんだ事じゃ。戸塚に智恵を附けて、中野学士をそそのかして西村を殺させた。それから俺を使《つこ》うて、あげな非道《ひど》い事をさせたに違わん。俺は今朝《けさ》、気が付いてから色々考えとるうちに、やっとわかったんじゃ。貴様こそ、この製鉄所に入込んどる赤い主義者の頭株に違いないぞ……もう助からんぞ……」
「ウハアッ……違う違う。タ、助けて下さい。皆さん助けて下さい
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