突立ったまま見ていた。
 その時に白坊主が、三好の耳に鼻の穴を近づけた。カスレた声で囁いた。
「……俺が誰か……わかるか……」
「ウア――ッ……ウワア――ッ……」
 と三好は悲鳴を揚げて藻掻《もが》き狂った。相手の声を聞くと同時に、恐怖が数倍したらしかった。スマートな長身の若紳士が、真白い大入道に抱き付かれて、半狂乱に暴れている光景……それを通じてわかる白入道の超人的な怪力と、血も涙もない冷静な怒り……見ている連中は石のように固くなってしまった。
「……幽霊だあッ……ウワア――ッ……」
「幽霊じゃない……」
 白坊主が底力のある声で云った。
「貴様に焼き殺され損のうた又野たい。死んだ三人の仇讐《かたき》をば取りに来たとたい」
「ウワーッ。助けてくれ……俺が悪かった。俺が悪かった。十二万円遣る……ホラ……」
 三好が投げ出した新聞紙包みが、白坊主の肩を越して、背後《うしろ》の腰掛にドタンと落ちた。
「ハハハ。十二万円ぐらいじゃ足らん」
 白坊主の声がだんだん慥《たし》かに、大きくなって来た。取巻いている人間が皆聞いていた。
「……十二万円ぐらいの事でここまで来はせん。……俺は五体中を火傷
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