の間を押し分けた制服の巡査が、肩を怒らして這入《はい》って来たが、白い大入道に抱きすくめられて血を吐いている人間の姿を見ると、
「アッ」
 と云って棒立ちになった。
 その巡査の眼の前の混凝土《コンクリート》の上に又野は、三好の死骸をドタリと突き放した。血に染まった丸坊主の両腕を突出してヨロヨロと立上った。腰をかがめてヒョコリとお辞儀をした。
「酒田さん。私は昨夜《ゆんべ》、第一工場で貴方のお世話になった又野です。大|火傷《やけはた》をしました製鉄所の職工です」
「……何だ……又野か……」
 巡査はホッとしたらしかった。そうして背後《うしろ》を振返りながら群衆を追い払った。
「退《の》け退けッ」
 疎《まば》らになった群衆の背後《うしろ》から、今出たばかりの旭《あさひ》がキラキラと映《さ》し込んで来た。
 白坊主の又野は眼を細くしてその光りを仰いだ。嬉しそうな、落付いた声で云った。
「十二万円は私の背後《うしろ》に在ります。その新聞紙包です。……私は犯人の三好を絞め殺しました。これで、やっと腹が癒《い》えました。……縛って……下さいまっせ――」
 そうして気力が尽きたらしく、両手を前に
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