るつもりであろう。暗い待合室に這入ったが、まだ時間が早いし、切符売場の窓が開《あ》いていないので、ちょっと舌打をしたまま悠々と出て行こうとした。その序《ついで》に、黄色い電燈に照らされた待合室を見まわすと、ギョッとしたらしく立止まった。
 改札口に近い右手の片隅には、青いネルの布片《ぬのきれ》に頬冠りをして毛布で身体《からだ》を包んだ老婆が、シッカリとバスケットに獅噛《しが》み付いて眠っていた。
 その反対側の入口に近い処に、全身を繃帯で真白に包んだ、スバラシク巨大な大入道が、腰をかけていた。その左足には石膏か何か嵌《は》まっているらしく、普通の人間の胴ぐらいの大きさになっている。おまけに履物も何も履いていないので、綿と繃帯で包んだ白い象の足みたいな足の裏が泥だらけになっている。
 三好は、あんまり意外千万な人間の姿を見てビックリしたらしく立竦《たちすく》んだ。……コンナ人間がこの霜朝に汽車に乗ってどこへ行くのだろう。もしや、これはどこかのお祭りの人形か、それとも何かの標本ではないか……と疑ったらしく、すっかり気を取られて見上げ見下していたが、そのうちにその真白な、潜水器じみた巨大な頭
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