7]の中には最小限七パーセント位の鉄分を含んでいる。この中から純粋の鉄を取るのは、非常に面倒な工程が要るので、こうやって放置して、冷却してから打割って海へ棄てるんだが、折角《せっかく》、こうして何千度という高熱に熱したものを、無駄にするのは惜しいものなんだ。ほかの技師連中はコイツをブロックにするとか、瓦を作るとか云って騒いでいるが、僕一人で反対して頑張っているんだ。だから、いつも職工が帰ってからここに来て、この火の海の中から簡単に純鉄を取る方法を考えているんだがね」
「今も考えているんですかい」
「ウン……重大なヒントが頭の中で閃めきかけているんだ。暫く黙っていてくれ給え」
戸塚は自烈度《じれった》そうにそこいらを見まわして舌打ちをした。
「チエッ……いい加減、馬鹿にしてもらいますめえぜ。十二万円の話はドウしてくれるんですか」
「十二万円……何が十二万円だい」
「……………」
「十二万円儲かる話でもあるのかい」
戸塚は唖然となったらしい。狭いデッキの上で、すこし中野学士から離れた。
「……呆れたね……」
「そんな話は知らないよ僕は……夢を見ているんじゃないか君は……」
戸塚の眼が
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