中野学士の肩に両手をかけてゆすぶった。
「返事はどうですか……中野さん……」
「……………」
「ここで返事すると云ったじゃありませんか……ええ……」
「……………」
「貴方《あなた》は今夜は現場勤務じゃないでしょう。出勤簿には欠勤の処に印《はん》を捺しておられるでしょう」
中野学士が微かにうなずいた。それから悠々と金口煙草を一本出してライターを灯《つ》けた。
「……あっしを……それじゃ……オビキ出すために、あんな事を云ったんですか……ここまで……」
戸塚は脅《お》びえたように足の下の火の海を見た。中野学士がそう云う戸塚の顔を振返って冷然と笑った。白い歯並が暗《やみ》に光った。
「暑いじゃないですかここは……丸で蒸《む》されるようだ」
「……フフン……百二三十度ぐらいだろうな……この空気は……フフン……」
「……あっちに行って話しましょうよ。もっと涼しい処で……」
「……イヤ。僕はここに居る。ここで考えなくちゃならん」
「何をお考えになるんですか」
「この※[#「金+皮」、第3水準1−93−7]の利用方法さ」
「この火の海のですか」
「ウン……この※[#「金+皮」、第3水準1−93−
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