眼鏡の下でキラリと光った。菜葉服の腕をマクリ上げかけたが又、思い直したらしく、鳥打帽を脱いで頭を下げた。
「……イヤ……中野さん。決して無理は云いません。四半分でいいんで……ねえ。それ位の事はわかってくれてもいいでしょう。貴方は大学を一番で出た優等生《できぶつ》だ。これからの出世は望み次第だ。第一頭がいいからね。西村さんを殺《や》った腕前なんざ凄いもんだぜ」
中野学士の眼鏡が反撃するようにピカリと赤く光った。
「……失敬な……失敬な事を云うな。西村を殺《や》ったのは貴様か、三好と二人の中《うち》の一人だろう」
戸塚は冷然と笑った。
「ヘヘヘ。その証拠は……」
「九月の末に、お前と三好と俺とでテニスを遣った事があるだろう」
「ありましたよ。三好が、あっしに勧めて貴方にお弟子入りをしようじゃないかと云い出したんです。三好が、一番下手なんで、貴方が三好ばかりガミガミ云ったもんだから、あれっきり来なくなっちゃったんですが……」
「ウム。あの時に会計部の西村がコートの横を通りかかったろう」
「ヘヘ。よく記憶《おぼ》えているんですね」
「今度の事件で思い出したんだ。……あの時も半運転だったから
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