捷《はしこい》らしい眼に鉄縁《てつぶち》の近眼鏡をかけている。色の黒い、顔の小さい、栗鼠《りす》という綽名に相応《ふさわ》しい感じの男。又、左側に大股を踏んばって、又野と歩調を合わせて来るスラリとした好男子は、修繕工の三好といって、相当学問のある才物らしく、大きな擬《まがい》鼈甲縁《べっこうぶち》の眼鏡をかけているが、三人とも無言のまま大急ぎでツンボ・コートを通抜けて、広い面積に投散らしてある鉄材の切屑をグルリとまわって、事務室の前から正門を通る広い道路まで来ると、やっと又野が口を利き出した。
「ああ。やっとこさ話の出来《でけ》る処《とこ》まで来た」
「まったく……あのスチームの音は非道《ひど》いね。創立以来のパイプだから、塞《ふさ》ごうたって塞ぎ切れるもんじゃねえ」
三好が振返って冷笑した。「会社全体が、あの通り調子付いていやがるんだからな」
「シッカリ働け。ボーナスが大きいぞ」と又野が巨大な肩をゆすぶって見せた。三好が今一度冷笑した。
「テヘッ。当てになるけえ。儲けとボーナスは重役のオテモリにきまってらあ。働らくものはオンチばかりだ」
「この野郎……」と又野が好人物らしく笑いなが
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