たが、間もなく顔中に勝ち誇ったような冷笑を浮かみ上がらせた。
三好と又野は壁の穴から身を退《ひ》いて、恐る恐る顔を見交した。二人とも笑えないほど緊張していた。やがて又野が深い、長い溜息を一つした。
「……そうかなあ……彼奴《あいつ》かなア……」
セカセカと眼鏡をかけ直しながら三好はうなずいた。又野は茫然となった。
「そうかなあ……ヘエーッ……」
「まだ疑っているのかい。タッタ今、自分で犯人だって事を自白したじゃねえか」
「……フーム……」
「又野君……」
「……………」
「今夜、俺と一所《いっしょ》に来てくれるかい」
「どこへ……」
三好の眼鏡が場内の電燈を反射してキラリと光った。命令するように云った。
「どこへでもいいから一所に来てくれ。六時のボーが鳴ったら俺が迎えに行く。俺一人じゃ出来ねえ仕事だかんな」
又野が黙って腕を組み直して考え込んだ。三好が冷然と見上げ見下した。
「嫌になったのかい。それとも怖くなったんかい……」
「ヨシッ……行く……」
「きっとだよ」
「間違いない」
「大仕事になるかも知れないよ」
「わかっとる」
「生命《いのち》がけの仕事になるかも……」
「ハハ
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