ち合っている四人に色々苦情を云い初めた。
「戸塚ッ……お前はどこでテニスを遣ったんだっけね」
「中学で遣ったんです。後衛でしたが」
「スタートが遅いね。我流だね。ホラホラ……」
「ええ。この拝借した地下足袋が痛くって……」
「ハハハ……俺の足は小さい上に、足袋が新しいからね」
「これ……太陽足袋ですね」
「ウン……辷《すべ》らないと云うから試しに買ってみたんだが……やっぱりテニス靴の方がいいね。窮屈で、重たくて、辷る事は同じ位、辷るんだからあそこに投込んでおいたんだ」
「いつ頃お求めになったんですか」
「……………」
「非常に丈夫そうですが、どこでお求めになったんで……」
「……………」
 中野学士は返事をしなかった。直ぐに真向うの事務員の一人を叱り飛ばした。
「馬鹿……そんな遠くからトップを打ったって利かん利かん……ソレこの通り……ハッハッハ……」
 と高笑いをするうちに、その事務員の足の下へ火の出るようなヴォーレーをタタキ返した。その得意そうな背後《うしろ》姿を睨みながら、戸塚が地下足袋の裏面《うら》をチョット裏返してみた。そうして何気ない恰好で、飛んで来る球《たま》に向って身構え
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