出ねえね。インテリだね。どうしても……」
「フーム……」
 又野はバットを横啣《よこぐわ》えにしたまま白い眼で三好をかえりみた。膝を抱えたまま……。
「お前もインテリじゃなかとな」
 三好は又野に睨まれてチョット鼻白んだ。
「インテリじゃねえけども……あれから毎日毎日考えてたんだ。だからわかったんだ」
「犯人の見当が付いたんか……そうして……」
「付いてる」
「エッ……」
「チャンと犯人の目星は付いてるよ」
 又野はジロリとそこいらを見まわした。真正直な、緊張した表情でバットの灰を弾《はじ》いた。
「戸塚が犯人て云うのか……お前は……」
「プッ……戸塚が犯人なもんけえ。俺達と一所に見てたじゃねえか。犯人なもんけえ」
「誰や……そんなら……」
 又野が突然にアグラを掻いて、真剣な態度で三好の方向に向き直った。バッタが驚いて二三匹草の中から飛上った。
 三好は答えなかった。事務室の方向を鼈甲縁越しにジイッと見ていたが、そのまま非常に緊張した、青褪《あおざ》めた顔をして云った。
「誰にも云っちゃいけないぜ。懸賞金は山分けにするから……」
「そげなものはどうでも良《え》え。西村さんの仇讐《かた
前へ 次へ
全46ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング