奴《あいつ》は警察でわざと大事な事を云い落しやがったんじゃねえかと思うんだ。俺に云い中《あ》てられて、慌てて云い消しよったろう」
「ハンカチの話かな」
「ウン。あのハンカチの一件は一番カンジンの話なんだが、戸塚の野郎が正直《まとも》に話すか知らんと思ったから、俺は別々に訊問された時もわざと云わずにおいたんだ。そうして様子を探ってみたんだ」
「疑い深いなあ……お前は……」
「まだあるんだ。あの時の犯人は新しい地下足袋を穿いていたろう。コートの湿めった処に太陽足袋の足跡が、ハッキリと残っているのを君も僕も見たじゃないか。西村さんを抱え上げた時に……」
「ウン……見たよ」
「あれを戸塚が見やがった時に気が附きやがったに違いないんだ」
「何を……」
「犯人がインテリだって事を……」
「インテリたあ何かいな……インテリて……」
「学問のある奴だって事よ。知識階級……つまり紳士って意味だね。ねえ。そうだろう。あんなに真白い、四角く折ったハンカチなんか菜葉服の野郎が持つもんじゃねえ。タッタ一撃《ひとうち》で殺《や》っ付けるつもりだったのが、案外な抵抗を喰ったもんだから思わず汗が出たんだね。そいつを拭
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