さ」
と三好は慌てて鼈甲縁をかけ直した。
「証拠にゃならねえが……俺達が味方にならねえと諦らめて、ほかの処へ同志を作《アジ》りに行ったものと思えば、そうも見えるだろう」
そう云ううちに三好は、菜葉服のポケットからバットを出して、又野にも一本取らせて火を点《つ》けてやった。
二人はコートの端の草の上に尻餅を突いた。工場の上を長閑《のどか》に舞っている二羽の鳶を二人とも仰ぎ見た。その上を流れる白い雲も……。
「恐ろしい疑い深い人間やなあお前は……」
又野はイヨイヨ不愉快そうに顔を撫でた。その横頬を熱心に見ながら三好は笑った。
「ハハハ。まだあるんだぜ。戸塚があの死体を西村さんと云い出すなり、直ぐに俸給泥棒と察して、追かけて行った時の素早かった事はどうだい。普通《ただ》じゃなかったぜ。あの意気込は……」
「あの男は頭が良《え》えけになあ。何でも素早いたい。今に限った事じゃなか」
「それがあの時は特別だったような気がするんだ。何もかも最初から知り抜いていたような気がするんだ。この頃になってやっと気が付いたんだが」
「フーン。そげな事が出来《でけ》るかなあ」
「そればかりじゃないんだ。彼
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