の頃就職して来やがったんだろう。それから、あんなに慣れ慣れしく俺達に近寄って来やがった癖に、あの事件から後《のち》、急に俺達と他所他所《よそよそ》しくし初めただろう。出勤《でる》にも帰宅《かえる》にも一人ポッチで、例の処へ誘っても一所に来やがらねえ。おまけにアレから後《のち》というもの、ショッチュウ何か考えているような恰好をしているじゃねえか」
「ウン。そう云うてみれあ、そげなところもあるなあ。あれから後《のち》、このテニス・コートを何度も何度もウロウロしているのを見た事がある」
「なあ。そうだろう。俺も見たんだ。だから怪しいと思ったんだ。そうしたらこの頃はチョットもここいらへ姿を見せなくなった代りに、隙《ひま》さえあれば第一工場に遊びに行きやがって、あそこのデッキ連中と心安くしているようだし、死んだ西村さんの家へ行って色々世話をしているかと思うと、事務所の連中とも交際《つきあ》うようになって、行きと帰りには毎日のように事務室に寄って行くらしい気ぶりじゃねえか」
「ウン。そらあ俺も気は附いとる。しかし何も、それじゃけに戸塚が、赤チウ証拠にゃあなるめえ」
「ウン。それあ証拠にゃあなるめえ
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