》くかどうかわかりませんでした。
けれども、思い切ってその端をしっかりと握って、湖の中に沈んでゆきました。
湖の水が濁っているのは、ほんの上の方のすこしばかりでした。下の方はやはり水晶のように明るく透きとおって、キラキラと輝いておりました。
その中にゆらめく水艸《みずくさ》の林の美しいこと……。ミミをふり返ってゆく魚の群の奇麗なこと……。
けれどもミミは、ただ兄さんのルルのことばかり考えて、なおも底深く沈んでゆきました。
そうすると、はるか底の方に湖の御殿が見え初めました。
湖の御殿は、ありとあらゆる貴《たっと》い美しい石で出来ておりまして、真珠の屋根が林のようにいくらもいくらも並んでおりました。
ミミは、その一番外側の、一番大きな御門の処まで来ますと、花の鎖を放して中へ這入って行きました。そうして、もしや兄さまがそこいらにいらっしゃりはしまいかと、ソッと呼んで見ました。
「ルル兄さま……」
けれども、広い御殿のどこからも何の返事もありません。はるかにはるかに向うまで続いている銀の廊下が、ピカピカと光っているばかりです。
ミミは悲しくなりました。
「兄さんはいらっしゃ
前へ
次へ
全26ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング