らないのか知らん」
 と思いました。
 その時でした。御殿の奥のどこからか、
「カアーンカアーン」
 という鉄鎚《かなづち》の音と一所に、懐しい懐しいルルの歌うこえが、水をふるわせてきこえて来ました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「ミミよ ミミよ オオ いもうとよ……くらい みずうみ オオ ならぬかね……ひとり ながめて オオ なくミミよ
「ちちは ならない アア かねつくり……あにも ならない アア かねつくり……ミミを のこして アア みずのそこ
「ミミよ なけなけ エエ みずうみが……ミミの なみだで エエ すむならば……かねも なるやら エエ しれぬもの」
[#ここで字下げ終わり]
 湖の女王様は金剛石の寝椅子の上に横になって、ルルの歌をきいておられました。そうして、ルルが陸《おか》に残したミミのことを悲しんで歌っていることを知られますと、湖の女王様は思わず独り言を云われました。
「ああ……私は可哀そうなことをした。ルルを湖の底へ呼ぶために、私はルルが作った鐘を鳴らないようにした。そうして、ルルがそれを悲しがって湖へ身を投げるようにした。そのために可哀そうなミ
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