、太い鎖と虫眼鏡までついている。
 私はそれを持って九州へ逃げた。関門海峡を渡る時に、腹の中で赤い舌をペロリと出した。ところが福岡の棲家へ帰ると電報が来ている。
「プラチナトケイ。ケイサツモンダイニナリ。トリシラベウケタ。キサマニソウイナシトワカル。シキュウヘンソウシ。ソノムネデンウテ」
 私は青くなって、時計を貴重品扱いで返送した。眼のまわるほど料金を取られた。
 するとそれから二週間位に、鎖と磁石つきの金時計が一個、おやじ[#「おやじ」に傍点]の名前で送って来た。手紙か何か来るかしらんと待っていたが、何も来ない。
 その後上京して様子をきいて見たら、警察問題は嘘で、又おやじ[#「おやじ」に傍点]に一パイ喰わされていたことがわかった。金時計をタタキ返して遣ろうかと思ったが、考え直して止した。

 明治四十一年のこと、九段竹橋の近衛歩兵第一連隊第四中隊(特に明記して置く)に一年志願兵としているうちに、或る晩の事、私の私物筥に風呂敷に包んだ餅が隠してあるのが発見された。その風呂敷に班付伍長勤務上等兵の名前が入っていたので、たちまち班内の大問題になって、私の左右に寝ている上等兵候補者が四人
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