「出来ましたかね」

 私のおやじ[#「おやじ」に傍点]は、伜をカラカッて楽しむというわるい癖がある。それもかなり残忍な方法で……たとえば私はいろんな事の褒美や何かでおやじ[#「おやじ」に傍点]から金時計を四ツとプラチナの時計を二個貰っていたが、実物はまだ一度も手にしなかった。私はその数をチャンと記憶して遺恨骨髄に徹していた。
 そのうちに私のニッケル側が壊れたから、これ幸いとその時計を持って上京して、おやじ[#「おやじ」に傍点]に新しいのを買ってくれといったら、おやじ[#「おやじ」に傍点]は仔細らしく私のニッケル側をゆすぶって見たあげくケロリとして、
「使えるだけ修繕して使え」
 と言って知り合いの時計屋を教えた。私は煮えくりかえる程腹がたって、どうしてくれようかと思い思いその時計屋に行ったら、見知り越しの番頭が出て来て、
「いらっしゃいまし。旦那様のお時計はもう出来ております。玉が一つ割れておりましたので……お届けしようと存じておりましたところで……」
 と言ううちに大きなマホガニーの箱をだした。開いて見ると、おやじ[#「おやじ」に傍点]が虎の子のようにしているプラチナの時計で
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